「個人事業主のままで本当に大丈夫…?」
そんな不安がちらりとよぎったら、ぜひ注目したいのが“小さく始める”マイクロ法人です。
節税メリットや社会保険の見直し、さらに取引先からの信用度向上など、個人事業では得にくい恩恵が盛りだくさん。
しかし、設立費や維持費、社会保険の負担など、知らないまま始めると損をする落とし穴も…。
本記事では、マイクロ法人を検討するうえで押さえておきたいメリット・デメリット、具体的な設立手順を徹底解説します。
会社員の副業から本格独立まで、あなたの働き方とライフスタイルを理想へ近づけるヒントがきっと見つかるはずです。
マイクロ法人とは
マイクロ法人は、代表者一人または少数のメンバーで運営される小規模な会社形態です。個人事業主より高い社会的信用を得られながら、最小限のコストで運営できます。働き方の多様化や税制面での特徴から、近年注目を集めています。
マイクロ法人の定義と特徴
社長(代表者)一人、従業員なしで運営
マイクロ法人の典型的なスタイルとして、「社長(代表者)1名のみ」という形が挙げられます。事務作業や日々の業務をほぼ代表者一人でこなし、必要に応じて業務委託や外注を行います。自宅の一室をオフィスとして利用し、パソコンとインターネット環境だけで事業を進めることも珍しくありません。
「経営者1人」の最小単位の法人形態
マイクロ法人は、個人事業を法人化した小規模な会社形態で、株式会社や合同会社として登記されます。法人名義での取引が可能で意思決定が早い一方、経営者への負担が集中するという特徴があります。
近年注目されている背景
マイクロ法人は、節税メリットと働き方の多様化を背景に注目を集めています。法人化による所得分散で税負担を抑えられる可能性があり、副業やフリーランスの増加に伴い、個人事業主からの移行も増えています。
マイクロ法人と個人事業主との違い
法人化することで得られる社会的信用度
マイクロ法人は個人事業主と比べて取引先や金融機関からの信用が高く、法人名義での活動が可能です。大手企業や行政との取引機会も広がり、事業展開の可能性を高められます。
税率や社会保険料の仕組み
マイクロ法人は一定の税率が適用され、個人事業主の累進課税と異なるため節税の可能性があります。ただし、役員報酬や社会保険料など追加コストが発生するため、必ずしも税負担が減るとは限りません。
事務手続き・維持費など負担面の違い
マイクロ法人は設立・維持に関する手続きやコストが個人事業主より多く、特に決算期の税理士費用などの管理が必要です。ただし、法人特有の経費計上により、総合的な税負担を抑えられる可能性もあります。
マイクロ法人と一般的な法人との違い
規模の違い(従業員・売上規模など)
マイクロ法人は従業員0〜数名、売上も数百万円から数千万円程度の小規模な法人です。一般企業と異なり、個人のスキルやサービスを活かした専門的なビジネスを展開することが多いのが特徴です。
代表者が1人でほぼすべてを担うケースが多い
マイクロ法人では代表者1人が経営から実務まで全般を担当するため、自由度が高い反面、時間的制約や専門知識の不足が課題となります。一般企業では分業制により専門的な業務展開が可能です。
役員報酬や資金調達規模の考え方
マイクロ法人では、代表者の役員報酬が主な収入となるため、社会保険料と生活コストを考慮した適切な設定が重要です。また、規模が小さいため融資を受けにくい反面、少額資金で効率的に事業展開できる機動力が特徴です。
会社員がマイクロ法人を設立するのは違法?
違法ではないが、社会保険料との兼ね合いに注意
会社員がマイクロ法人を設立することは違法ではありませんが、社会保険の加入については注意が必要です。会社員と法人の代表の両方で社会保険に加入しなければならないケースもあり、制度は複雑です。事前に社会保険のルールをしっかり確認し、専門家に相談することをおすすめします。
勤務先の就業規則・副業禁止規定との関係
会社によっては副業が禁止されているため、マイクロ法人の設立は勤務先の規定を確認する必要があります。特に公務員は副業が厳しく制限されています。会社が副業を認めている場合でも、業務内容によっては問題になる可能性があるため、事前に会社に相談することが大切です。
マイクロ法人を設立する理由・ケース
個人事業や副業で収入が増えた人が、節税や信用力向上などを目的に、マイクロ法人を設立することがあります。しかし、社会保険料や維持費も増えるため、メリットとデメリットを比較検討することが重要です。
個人事業主から法人成りをするケース
個人事業主から法人成りする際にマイクロ法人を利用するケースは主に以下の3つが理由です。
ポイント
- 売上の増加に対する節税メリット
- 社会保険料の負担軽減
- 信用力の向上
売上の増加に対する節税メリット
個人事業主として事業を進めていると、売上や利益が大きくなるにつれて所得税の累進課税率が高くなり、税負担が増加しやすくなります。そこで、一定の利益水準を超えると、「法人成り」を検討する方が増えてきます。
- 税率の違い
個人事業主の場合は売上 - 経費 = 利益(事業所得)に対して所得税が累進課税されます。一方、法人の場合は「法人税+地方法人特別税+住民税」などがかかり、税率が一定です。事業規模が大きくなると、個人事業主として課される高い累進課税率より、法人の方が税率が低くなる可能性があるため、結果的に節税につながることがあります。 - 消費税の納税義務の扱い
法人化した場合でも、一定期間の消費税免税事業者のメリットを受けられるケースがあります。ただし、改正によって免税事業者を取り巻く制度が変化する可能性があるため、最新の情報をチェックしたうえでの判断が必要です。
社会保険料の負担軽減
個人事業主から法人成りをすることで、代表者自身が役員報酬を設定する形になります。役員報酬は社会保険料の計算基礎となるため、適切な報酬額を決めることで、結果的に社会保険料の負担を一定程度コントロールできる可能性があります。ただし、報酬を極端に低くすると生活や事業運営に支障が出るため、バランスが重要です。
信用力の向上
個人事業主に比べて、法人として登記されていることで信用力がアップすることが期待できます。銀行融資や大手企業・行政との取引では、「法人であること」が前提となる場合もあり、名刺やウェブサイトの表記においても法人名義の方が印象が良いとされるケースが多いです。
新規事業を立ち上げる(二刀流)ケース
すでに個人事業を営んでいる方が、新たに別の事業を始める際に、その新規事業を法人化して運営するというケースです。個人事業のまま別事業を同時並行で行うことも可能ですが、まったく異なる分野・市場を対象とするビジネスの場合、法人成りを選択することで経営上の柔軟性や管理のしやすさを得られる場合があります。
異なるビジネスモデルの管理
業種やビジネスモデルが大きく違う場合、利益率や経費構造が異なります。法人形態にしておくと、会計や税務上の処理を明確に分離しやすいため、資金繰りや経理管理がしやすくなります。
事業ごとにリスクや帳簿を分けたい
法人化しておけば、事業で発生した負債やリスクを「法人」として切り分けられる可能性があり、トータルでのリスク管理がしやすくなります。
また、個人事業と別の法人として帳簿や銀行口座を持つことで、収支や経費などを明確に区分できます。
マイクロ法人と個人事業主の二刀流についてはこちらの記事でくわしく解説しています。
マイクロ法人と個人事業主の二刀流で失敗しないための節税ガイド
会社員の副業の利益が増えたとき
近年では副業や兼業が一般的になり、会社員としての収入とは別に相当な金額を稼ぐ人も増えています。副業で得た所得が高額になると、給与所得に上乗せして個人の所得税が高くなるだけでなく、住民税も増え、会社に副業が発覚するリスクも高まります。
副業の法人化によるメリット
副業収入が増えた場合、法人化することで、以下のメリットが期待できます。
- 節税効果
- ・個人事業よりも法人税率が一定のため、高額所得による税負担を軽減できる可能性があります。
・事業に必要な経費を明確化し、所得を圧縮できます。
- 信用度向上
- ・法人化することで、取引先からの信頼度が上がり、ビジネスの幅が広がる可能性があります。
副業の法人化での注意点
法人化には、以下のような注意点もあります。
- 社会保険料の負担
- ・法人設立により、新たに社会保険料がかかる可能性があります。
・役員報酬の設定次第では、かえって負担が増えることも。
- 手続きの煩雑さ
- ・法人設立には、様々な手続きが必要となります。
マイクロ法人を設立するメリット
マイクロ法人を設立するメリットは、主に税金や社会保険料の削減、社会的信用力の向上が挙げられます。
所得税・住民税の負担減
個人事業主の場合、事業で得た利益は個人の所得として課税されます。一方、マイクロ法人を設立し、その法人の役員(代表取締役)として報酬を受け取る形にすることで、個人の所得税や住民税の負担を一定程度コントロールできる可能性があります。
役員報酬の設定によるメリット
マイクロ法人の代表取締役の役員報酬は、ある程度自由に設定することができます。この役員報酬を低額にすることで、個人の所得を減らし、所得税や住民税の負担を軽減できます。しかし、生活費や社会保険の適用に影響するため、慎重な設定が必要です。
給与所得控除の活用
役員報酬は「給与所得」として扱われるため、給与所得控除が適用されます。特に所得が低い場合は、事業所得として計算するよりも税負担が少なくなる可能性が高く、法人化による節税効果が期待できます。
個人事業主と法人における社会保険料の違い
個人事業主の社会保険料は、所得や自治体により高額になる場合があります。一方、マイクロ法人を設立すると、代表者として厚生年金や健康保険に加入し、状況によっては個人事業主より負担が少なくなることもあります。
個人事業主の場合
- 所得と保険料の関係:昨年の収入に応じて保険料が決まります。収入が増えれば、保険料も高くなる仕組みです。
- 保険料のコントロール:事業の収益を調整することで、保険料をある程度コントロールできます。
- 柔軟性:事業で得た収入はすべて保険料の計算対象となります。
マイクロ法人の場合
- 役員報酬と保険料の関係:代表者や役員の給与(役員報酬)によって、保険料が決まります。役員報酬を低く抑えれば、保険料も抑えられます。
- 家族の雇用:家族を従業員として雇用することで、給与として支払った金額を事業の経費として計上できる可能性があります。
- 社会保険の二重加入:会社員を兼業している場合は、社会保険に二重で加入することになる可能性があるため、注意が必要です。
家族を雇用する場合の注意点
- 個人事業主の場合:家族に支払う給与は、経費として認められるケースが限られています。
- 法人の場合:家族に支払う給与は、一定の条件を満たせば経費として認められます。
- 社会保険料の負担:家族を雇用すると、会社側の社会保険料の負担が増加します。
マイクロ法人の社会保険料についてはこちらの記事でくわしく解説しています。
マイクロ法人活用術:社会保険料を最適化する方法
消費税の免税事業者になれる可能性
法人を設立すると、設立から一定期間は消費税を納めなくてもよい場合があります。免税事業者となることで、一定の売上までは消費税を納付しなくて済むため、実質的な手取り額が増えるメリットが期待できます。
設立時の免除ルールの活用
資本金1,000万円未満の法人や、一定期間の売上が1,000万円を超えない事業者は、原則として設立後1期目と2期目は消費税の免税事業者となることができます。
これにより、事業を始めたばかりの間は消費税の納税義務が免除され、キャッシュフローを改善することが期待できます。
インボイス制度に注意
2023年10月から始まったインボイス制度により、取引先が課税事業者の場合、インボイスの発行が必須となりました。免税事業者のままでは取引先が仕入税額控除を受けられず、取引が減る可能性があります。
ただし、免税事業者でもインボイス登録が可能ですが、消費税の納税義務が発生します。課税事業者になるメリット・デメリットを比較し、慎重に判断することが重要です。
経費計上できる範囲が広がる
マイクロ法人を設立することで、事業に関わる経費の計上方法にも変化が生じます。個人事業と比較すると、法人ならではの経費として扱いやすい項目が増えるため、節税に寄与する可能性があります。
役員報酬
法人の場合、代表取締役に対する報酬は給与として扱われるため、法人の損金(経費)に算入できます。個人事業主の場合は自分自身の所得を給与扱いにできないため、この違いは大きなメリットとなります。
交際費
法人が支出する交際費は一定の範囲で損金に算入できます。中小法人であるマイクロ法人の場合は、特定の限度額までが全額損金算入できる制度もあり、個人事業主の「接待交際費」と比較すると有利に働くことがあります。
個人事業との違い
個人事業の場合、自分自身の生活費や家族の生活費と事業にかかる経費が混在しやすく、税務調査時にトラブルになる可能性があります。一方、法人は個人と別人格として扱われるため、法人名義の口座やクレジットカードを用いれば、事業用の支出を明確に分けやすくなります。
結果として、どの支出が経費に該当するのかを整理しやすくなり、正しく経費計上できる体制が構築しやすいのは大きなメリットです。
社会的信用度・取引先からの評価
マイクロ法人であっても、個人事業主に比べて「法人」であるという事実自体が、対外的な信用を高めるケースがあります。特に、新規取引や融資などでの審査に有利に働くことが多いです。
法人口座や法人名義での契約がしやすい
個人事業主の場合、銀行口座はあくまで個人名義となるため、取引先によっては信頼性に疑問を持たれたり、ビジネス上の制限を受けたりすることもあります。法人を設立すれば法人名義の口座を開設でき、クレジットカードやリース契約なども法人名義で契約しやすくなります。
これにより、資金管理や経費の支払いなどをスムーズに行うことが可能になります。
資金調達や融資面での信用度
法人格を持っていると、金融機関から融資を受ける際の審査が個人事業主に比べて有利になる場合があります。法人の場合は事業計画や過去の決算書などが明確にまとめられるため、銀行や投資家にとって事業内容が把握しやすく、審査が通りやすいとされます。
もちろん、すべてのケースで融資が容易になるわけではありませんが、個人事業よりも信用度が高くなる可能性があるため、設備投資やビジネス拡大を目指す場合は大きなメリットとなるでしょう。
マイクロ法人を設立するデメリット
マイクロ法人は、個人事業主としての活動に比べて節税や信用力向上などさまざまなメリットがある一方で、知っておくべきデメリットや注意点も存在します。ここでは、マイクロ法人を設立することによる代表的なデメリットと、それぞれの具体的な内容について解説します。
設立費用・維持費がかかる
設立費用・税金
マイクロ法人を設立する際、個人事業主にはない費用が発生します。具体的には、定款(会社のルールを定めた書類)の認証手数料(公証役場への支払い)や、法人を設立するための登録免許税が挙げられます。さらに、設立後には「法人住民税均等割」の支払い義務が生じます。これは会社が黒字・赤字にかかわらず課税されるため、売上が少ない段階でも一定の支出が必要になります。
設立費用の例
- 定款認証手数料:株式会社であれば約5万円程度、合同会社であれば定款認証手数料は不要ですが、その代わり電子定款作成にかかる費用等がかかる場合があります。
- 登録免許税:株式会社なら最低15万円、合同会社なら最低6万円かかります。
- 法人住民税均等割:本社所在地や事業内容によって異なりますが、最低でも年間7万円ほどが目安です。
維持費
会社を運営していくにあたり、会計や決算申告を行う必要があります。これらを税理士に依頼する場合は毎月の顧問料や決算料が発生し、また自分で会計ソフトを使用する場合でもソフトの利用料がかかります。さらに、事業内容によっては税理士のサポートを受けたほうが安心であることが多いため、維持費としてのランニングコストを見込んでおかなければなりません。
維持費の例
- 顧問税理士費用:月額1万円~数万円程度、決算料として別途数万円かかることも
- 会計ソフト費用:月額1,000円程度から1万円以上まで機能によって幅広い
これらは売上が少ない場合でも発生する固定費用ですので、マイクロ法人の規模に応じたコスト管理が必要です。
事務手続きが煩雑になる
年に一度の決算・法人税申告
マイクロ法人であっても、会社として決算や法人税の申告は必須です。個人事業主に比べて事務手続きが複雑になり、専門的な知識も必要となるため、手間と時間が大幅に増える点がデメリットと言えます。特に、初めて法人を設立する方にとっては、これらの事務作業が大きな負担となるでしょう。
社会保険の加入、労務管理の有無
法人を設立すると、代表者や従業員(家族を含む)を対象とした社会保険の適用が原則として求められます。健康保険や厚生年金の加入手続き、労働保険や雇用保険の管理など、労務管理の業務も増えます。マイクロ法人の代表者が一人しかいない場合でも、社会保険の適用事業所とみなされるケースが多く、社会保険の加入義務が生じる可能性があるため注意が必要です。
法人用口座の開設、帳簿付け
個人事業主としての業務口座と比べて、法人用口座を開設する場合は銀行からの審査が厳しくなることがあります。また、会社のお金と個人のお金を分けて管理するため、日々の帳簿付けも厳密に行わなければなりません。特に事業用の支出とプライベートの支出を明確に分けることが求められるため、経費精算などの事務処理は個人事業主よりも手間がかかるでしょう。
サラリーマンの社会保険料節約はできない
サラリーマンが副業でマイクロ法人を設立しても、社会保険料を抜本的に節約するのは難しいということを理解しておく必要があります。
勤務先の社会保険適用は外せない
会社員として勤務している方が副業としてマイクロ法人を設立するケースも増えています。しかし、この場合でも勤務先で厚生年金や健康保険に加入している限り、社会保険料を節約する目的で「法人にして国民健康保険へ切り替える」といった方法は基本的には使えません。多くの企業では、従業員が他社で法人を立ち上げても本業の社会保険は外れず、勤務先の給与から社会保険料が引かれ続けることになります。
国民健康保険に切り替えるメリット・デメリット
もし本業を退職して起業・独立するという場合には、健康保険・厚生年金の代わりに、国民健康保険や国民年金に切り替える選択肢もあります。ただし、国民健康保険は所得によって保険料が変動し、家族構成や自治体の制度によって保険料負担が増減することがあります。厚生年金に比べ老後の年金受給額が少なくなるなど、長期的な視点で検討が必要です。
国民健康保険に切り替えるメリット
- 顧問税理士費用:月額1万円~数万円程度、決算料として別途数万円かかることも
- 自治体独自の減免制度を活用できる可能性がある
国民健康保険に切り替えるデメリット
- 厚生年金に比べ将来の年金受給額が少なくなる
- 収入の変動が激しい場合、保険料計算が複雑になる可能性
サラリーマンがマイクロ法人を設立する方法についてはこちらの記事でくわしく解説しています。
サラリーマンがマイクロ法人を設立する完全ガイド
マイクロ法人の作り方【設立手順】
会社設立に必要な基礎情報を決める
まずは、会社設立にあたり必要となる基本的な情報を整理しておきましょう。
会社名・所在地・事業目的・役員・資本金など
会社名・所在地・事業目的・役員・資本金などについては、以下の点に注意しましょう。
- 会社名
日本語での社名はもちろん、アルファベット表記や「株式会社〇〇」のように、カタカナやローマ字を組み合わせることも可能です。ただし、既存の有名企業と極めて似た名称や、公序良俗に反する名称は使用できない場合があります。商標侵害や混同を避けるためにも、あらかじめ商標データベースや法務局の検索などで確認しておくと安心です。
- 所在地
自宅を本店所在地とする個人事業主が多いですが、賃貸物件などを利用する場合は事前に「会社登記として使えるか」を確認しておきます。賃貸契約書や管理規約で事務所利用を認めていない場合もあるため要注意です。
- 事業目的
設立時に登記する「事業目的」には、現在の事業内容のみならず、今後の事業拡大を見越した内容も含めておくとよいでしょう。定款に記載されていない事業は将来的に行えないわけではありませんが、目的変更のための手続き(定款変更)が必要となります。
- 役員
マイクロ法人では、代表取締役ひとり(または代表社員)で運営するケースがほとんどです。しかし、任期や報酬の設定などがあるため、役員の就任期間や報酬額を決定しておきましょう。
- 資本金
最低資本金制度は撤廃され、1円から設立が可能ですが、あまりに低額だと信用力が低くなる場合もあります。事業活動の規模や信用力を考慮して適切な金額を設定しましょう。
株式会社か合同会社かの選択
株式会社と合同会社の特徴は以下のとおりです。
株式会社
知名度・信用力が高く、決算公告義務はあるものの、設立後に資金調達の選択肢も広い点がメリットです。ただし、公証役場での定款認証が必要で、登録免許税が高くなりがちという面もあります。
合同会社
比較的設立コストが安く、定款認証が不要で、内部の意思決定や利益配分も柔軟です。一方で株式会社に比べると社会的信用力がやや低い、決算公告の義務がないなどの違いがあります。
小規模経営を想定しているなら、合同会社を選ぶケースも多いです。
法人用の印鑑を作成する
会社名を決めたら、法人用の印鑑を準備します。会社設立後の様々な手続きに必要となるため、早めに作成しておきましょう。
法人実印・銀行印・角印を用意
印鑑は一般的に法人実印・銀行印・角印を用意します。それぞれの用途は以下のとおりです。
- 法人実印
会社の重要な契約書などに使用します。法務局へ「印鑑届出」をすることで、法人実印として正式に登録されます。
- 銀行印
法人口座の開設や銀行取引に使用する印鑑です。法人実印と区別するために、印鑑の形状やサイズを変えておくと混乱を避けられます。
- 角印
領収書や請求書などの日常の事務処理や社内文書で使用する印鑑です。角印が無くても業務上は問題ありませんが、対外的に信用度が高まるケースがあります。
後々の手続き効率を考慮
印鑑を一度登録すると、後から形状を変更するには再登録や費用がかかります。書体やサイズ、材質などは慎重に選びましょう。また、スピーディーに会社設立を進めたい場合は、ネット注文で速達対応している業者を活用するのも手です。
定款を作成する
定款は会社の基本的なルールや事項を定めた書類です。会社の設立や運営の根幹となるため、ミスのないように作成します。
事業目的の書き方
定款に記載する事業目的は具体的かつ将来的な拡張性を考慮して定めるのがポイントです。あまりに広範囲すぎると登記が認められないケースもありますが、想定される事業は一通り入れておくことで後の目的変更を減らすことができます。
発行可能株式総数・機関設計など
発行可能株式総数(株式会社の場合)
設立時にどの程度の株式を発行できるかを定めます。通常、設立時に発行する株式数の4〜5倍程度に設定することが多いです。
機関設計
取締役会を置くかどうか、監査役を置くかどうかなどを決定します。マイクロ法人の場合は、取締役会を設置せず、代表取締役のみで運営するケースが一般的です。
電子定款を利用すれば印紙代4万円が不要
定款を紙ベースで作成すると、4万円の収入印紙が必要です。これに対して、PDFなどの電子ファイルとして定款を作成・認証する「電子定款」を利用すると印紙代が不要になるため、コストを抑えることができます。
ただし、電子定款を作成するためには、電子証明書やICカードリーダー、専門のソフトウェアなどの準備が必要です。費用や手間を考慮しつつ、専門サービスを利用する方法も検討しましょう。
公証役場で定款認証を行う(株式会社の場合)
株式会社の場合は、作成した定款を公証役場で認証してもらう手続きを踏む必要があります(合同会社は不要)。
電子定款の場合の注意点
電子定款を用いる場合は、事前に公証人とデータのやり取りをする手間が発生します。送付方法や電子証明書の有効期限など、確認事項が多いので、公証役場への事前問い合わせや行政書士などの専門家に依頼して進めるとスムーズです。
認証手数料
公証役場で定款認証を行う際、定款のページ数や内容により手数料が決まります。株式会社の認証手数料は約5万円が相場ですが、詳細は公証役場に確認してください。
また、定款を紙で持ち込む場合は印紙代4万円がかかるため、電子定款を利用する方が経費を抑えられます。
資本金の払込み・払込証明書を取得する
定款の認証が完了したら、発起人(出資者)名義の銀行口座に資本金を振り込み、払込証明書を作成します。
発起人名義の口座に資本金を振り込む
会社設立時点ではまだ法人口座を開設できないため、発起人個人の銀行口座を利用します。振込が完了したら、通帳のコピーや振込明細書などを用いて、資本金が確かに入金されたことを証明します。
払込証明書を作り、法務局に提出
資本金の払込事実を証明するためには、「払込証明書」を作成し、通帳コピー(表紙・入金記録のあるページ)などを添付して法務局に提出します。払込証明書の書式は特に決まりはありませんが、必要事項(発起人名、振込金額、日付など)を漏れなく記載しましょう。
登記書類を作成し登記申請を行う
次に、会社設立に必要な登記申請書類をそろえ、法務局へ登記申請します。
登記申請書・印鑑届出書・就任承諾書など
会社設立の際には、以下のような書類が必要です。
- 登記申請書
会社の基本事項を記載し、法務局に提出する書類です。 - 印鑑届出書
法人実印として登録する印鑑を届け出ます。 - 就任承諾書
代表取締役や取締役などが、役職に就任することを承諾したことを示す書類です。 - 定款
認証済の定款(または電子定款のデータ)を添付します。 - 払込証明書
資本金の払込事実を証明するために提出します。
書類の不備や不足があると補正や再提出が必要になります。法務局のホームページに掲載されているひな形や、専門家のサイトなどを参考にしながら正確に作成しましょう。
登録免許税の納付
登記に必要な登録免許税は、資本金の額に応じて計算されます。
- 株式会社の場合
資本金 × 0.7%(ただし、最低額は15万円) - 合同会社の場合
資本金 × 0.7%(ただし、最低額は6万円)
この登録免許税は、収入印紙を登記申請書に貼り付けて納付する方法や、電子納付などの方法があります。
登記簿謄本と印鑑証明書を受け取る
登記申請後、通常は1~2週間ほどで審査が完了します。登記が完了したら、会社として正式に成立したこととなります。
登記完了後に法務局で取得
登記完了を確認したら、法務局で「登記簿謄本(現在事項全部証明書)」と「印鑑証明書」を取得します。金融機関での法人口座開設や許認可申請など、多くの場面で必要になるため、数通取得しておくと便利です。
会社実印の登録証明
印鑑届出をした印鑑が正式に法人実印として認められ、印鑑証明書が発行されます。今後の重要な契約書に押印する際は、この法人実印を使い、必要に応じて印鑑証明書を提出することになります。
各種行政への手続きを行う
会社の設立登記が完了したら、税務署や自治体など、各行政機関への手続きが必要です。提出期限や必要書類を確認し、漏れがないように進めましょう。
税務署(法人設立届、青色申告承認申請など)
- 法人設立届出書
会社を設立した日から2ヶ月以内に提出が必要です。 - 青色申告承認申請書
青色申告を行う場合は、設立日から3ヶ月以内もしくは当該事業年度終了日までのいずれか早い日までに提出します。青色申告特別控除などの税制メリットを受けられます。 - 給与支払事務所等の開設届出書
役員報酬や従業員給与を支払う場合は提出が必要になります。
都道府県税事務所・市区町村役場(法人事業税・法人住民税など)
都道府県税事務所には、法人事業税に関する届出を行います。市区町村役場にも法人住民税の届出が必要です。提出期限や書類の様式は自治体によって異なる場合がありますので、必ず確認してください。
社会保険(健康保険・厚生年金)・労働保険(雇用保険・労災保険)
- 社会保険
代表取締役や従業員を雇用している場合は、健康保険と厚生年金に加入します。設立後5日以内に「適用事業所設置届」を年金事務所へ提出します。 - 労働保険
従業員を雇用している場合は、雇用保険や労災保険に加入が必要です。管轄の労働基準監督署やハローワークへ手続きを行います。
これらの手続きは、期限が定められているものが多いため、早めの確認と準備が大切です。必要に応じて、社会保険労務士や税理士などの専門家に相談しながら進めるとスムーズに行えるでしょう。
マイクロ法人設立後の注意点・違法とならないために
マイクロ法人を設立した後は、節税や社会保険料の削減などのメリットを享受できる一方で、法令や規則を遵守しないと「違法行為」や「ペーパーカンパニー」とみなされるリスクがあります。特に、税務当局や行政当局から厳しい目でチェックされることがあるため、経理・税務処理、社会保険手続きなどを正しく行う必要があります。以下では、マイクロ法人を継続して運営するうえで注意すべきポイントを解説します。
ペーパーカンパニーとみなされないためのポイント
実際に事業を行っている実態の証明(売上・経費・取引先など)
マイクロ法人は、事業規模が小さいために実態がわかりにくいことがあります。したがって、以下のような具体的な証拠を用意し、“実際に事業が行われている”ことを示すことが重要です。
- 売上や取引履歴の記帳・管理
個人事業主時代から継続する形であっても、売上データや取引先からの注文書・請求書などをしっかりと記帳・保存することで、経営活動の実態を示すことができます。 - 経費の領収書・請求書の保管
取引先との会食やオフィス備品・ソフトウェア購入などの経費については、発生の都度、領収書や請求書を保管し、会計帳簿に反映させましょう。少額の支出であっても、立証できない経費は不正計上とみなされるリスクがあります。 - 取引先とのやり取りの証拠
メールでの連絡履歴や契約書のコピーなど、取引先とのやり取りを示す書類を保管しておくと、ペーパーカンパニーの疑いを払拭しやすくなります。
法人としての実質的な活動を継続する
- 定期的な会議・業務レビュー
たとえ規模が小さくても、定期的に法人の事業計画や実績を確認するミーティングを設け、議事録を作成することで「会社組織として実質的に活動している」ことを示せます。 - 事業銀行口座を開設し、法人名義で管理する
事業資金のやりとりを明確化するためにも、法人名義の銀行口座を開設し、売上の入金や経費の支払いはすべて法人名義で行うことが望ましいです。 - オフィス・住所の確保
自宅兼事務所であっても、登記住所や郵便物のやり取りなど法人として適切に管理できる環境を整えることが必要です。少なくとも、郵便物の受取や書類保管ができる場所を用意し、活動拠点として明示できるようにしておきましょう。
脱税行為と判断されないようにする
給与や役員報酬の不正操作は厳禁
- 役員報酬の妥当性
マイクロ法人の代表取締役に支払う役員報酬は、毎月定額で支給することが原則です。年度途中で勝手に金額を変動させると税務上問題視される可能性が高くなります。「節税のために報酬を低くしすぎる」「赤字なのに高額の報酬をとりすぎる」など、社会通念から大きく外れた設定は避けましょう。 - 給与の二重取りに注意
会社員としての給与とマイクロ法人の役員報酬を同時に受け取る場合、その割合や金額が実態と一致していないと、税務当局から疑念を持たれる場合があります。給与計算や源泉徴収を正しく行い、個人所得とのバランスをとることが大切です。
適切な会計処理や税務申告を行う
- 帳簿の作成・保存
会社設立後は毎年決算を行い、確定申告をする必要があります。売上や仕入れ、経費の入出金を適切に記帳し、請求書・領収書・通帳のコピーなどの証憑書類を7年間(電子取引はデータ保存要件により最長10年)保存しましょう。 - 税理士や専門家への相談
マイクロ法人といえども、法人税、住民税、消費税などの税務処理は複雑です。自力で行うのが難しい場合は、税理士などの専門家に依頼することで、脱税リスクや申告ミスを最小限に抑えられます。
会社員との兼業における注意点
勤務先の就業規則・競業避止義務の確認
- 就業規則で兼業が禁止・制限されていないか
多くの企業では兼業を制限している場合があります。特に就業規則で「兼業禁止」が明記されている場合、許可なくマイクロ法人を設立・運営することは懲戒処分の対象となる可能性があります。まずは人事部や上司に相談し、兼業の可否や手続きを確認しましょう。 - 競業避止義務への抵触
会社の事業内容とマイクロ法人の業務内容が競合している場合、競業避止義務に違反するリスクがあります。仮に同業種であっても、「業務分野が明確に異なる」「取引先やノウハウの流用がない」など、社内規定に抵触しないように慎重に業務範囲を検討する必要があります。
社会保険の被用者資格における制約
- 健康保険・厚生年金の扱い
会社員として厚生年金や健康保険に加入している場合、マイクロ法人の役員報酬や働き方によっては、新たに法人側で社会保険に加入する必要が生じる可能性があります。従業員数や役員報酬の額によって加入義務の有無が異なるため、社会保険事務所や専門家に相談しましょう。 - 報酬額と保険料負担
会社員としての収入に加えて、マイクロ法人から役員報酬を受け取ると、社会保険料の負担や年金額の算定に影響を与える場合があります。短期的な節税メリットだけでなく、将来的な年金受給額や健康保険給付への影響も踏まえ、総合的に検討することが大切です。
マイクロ法人は、個人事業主に比べて節税やリスク分散などのメリットを得やすい反面、法的リスクや経理・税務処理の煩雑さも伴います。違法行為とならないように、常に「実態のある法人活動」を示し、税務申告や社会保険手続きを正しく行いましょう。会社員との兼業を検討している場合は、勤務先の就業規則や競業避止義務をしっかり確認したうえで、適切に法人運営を行うことが重要です。
どんな人・どんな事業にマイクロ法人が向いているか
イクロ法人を設立すると、節税効果や社会的な信用度向上などのメリットが得られる一方、法人としての諸経費や運営の煩雑さも増します。こうしたメリット・デメリットを把握したうえで、自身の事業規模や目的に合った形で検討していくことが重要です。
マイクロ法人と相性の良い業種
- アフィリエイト
広告収入を主な収益源とするアフィリエイトは、在庫リスクが少なく、個人事業主でも十分に行えるビジネスです。売上が大きくなると、個人のままでは高い所得税率が適用されてしまうため、マイクロ法人を設立して課税を一定に抑えるメリットが期待できます。 - せどり(転売)
ネットショップやオークションサイト、フリマアプリなどで商品を仕入れ、転売するビジネスモデルです。利益が増加してきたタイミングで法人化すると、経費計上の幅が広がるだけでなく、事業拡大や外部への信用力アップにもつながります。 - コンサルティング
個人で専門的な知識を提供するコンサルティング事業は、顧客との契約や信用度が重視されます。マイクロ法人化することで、“個人”ではなく“法人”として取引を行えるため、クライアントからの信頼度や取引条件の安定度が高まります。 - 不動産投資
不動産投資で一定の家賃収入がある場合、個人名義で保有するよりも法人名義にすることで相続や節税面のメリットが得られるケースがあります。ただし、銀行融資の借りやすさや税制上の優遇が変わる場合もあるため、長期的な資金計画と照らし合わせて検討すると良いでしょう。 - 配送業
フリーランスドライバーや個人事業主で配送業を行っている方が、一定の売上を確保し始めた際にマイクロ法人化を検討するケースもあります。車両のリース契約、保険、業務委託契約など、法人で管理したほうがメリットが大きくなる可能性があります。 - オンラインビジネス
アプリ開発、ウェブデザイン、ウェブマーケティングなど、インターネットを通じて完結するビジネスは、オフィスを必要とせず固定費も比較的抑えやすいため、マイクロ法人との相性が良い分野です。事業規模が大きくなってきたら、法人化を視野に入れることで、節税や信用度向上の恩恵を受けやすいでしょう。
資金調達や対外的信用が必要か、費用を最優先するか
事業を運営するにあたって、銀行融資や投資家からの資金調達を積極的に行う必要がある場合は、やはり株式会社のほうが優位になる傾向があります。一方、設立コストや維持費を最小限に抑えたいのであれば合同会社が好ましい場合もあります。マイクロ法人の場合、取引先や顧客に求められる信用度とのバランスを考えつつ、どちらの法人形態が適切かを検討することが大切です。
年収や売上がいくらからがおすすめ?
法人を設立するかどうかの判断では、「どのくらいの収入(年収や売上)になったらお得になるか」という点が大きなポイントになります。個人事業主の所得税率は累進課税のため、利益(所得)が増えるほど高い税率がかかります。一方、法人税は一定の税率が適用されるため、ある程度の利益が出る場合は、法人化したほうが節税になるケースがあります。
個人事業主の税率と法人設立コストの損益分岐
個人事業主として所得が増えると、住民税や健康保険料も合わせて納税額が大きくなります。これらを考慮すると、一般的には「年間の利益が数百万円〜数千万円」の水準になったタイミングで法人化を検討するケースが多いです。具体的な税金計算や設立費用の回収シミュレーションを行うことで、損益分岐点を把握することが重要です。
一般的に売上数百万円〜数千万円で検討するケースが多い
事業によっては利益率や必要経費が大きく異なるため、一概にいくらからとは断言しにくいものの、売上が安定して数百万円以上になってきたら、顧問税理士などに相談しつつ法人化を視野に入れると良いでしょう。法人としての節税メリットはもちろん、社会的信用度や事業拡大のしやすさも総合的に考慮する必要があります。
副業300万円問題とは?
本業とは別に副業として事業を行う方が増える中で、よく話題になるのが「副業300万円問題」です。これは、副業の年間所得(売上−経費)が300万円を超えてきたタイミングで、個人事業主のまま続けるか、マイクロ法人を設立するかを検討する目安とされるものです。
副業による所得が300万円を超えてきたタイミングで検討されがち
副業であっても一定の所得水準を超えると、個人事業主の累進課税による税負担が大きくなります。また、本業との兼ね合いで、会社によっては副業収入が増えることにより社会保険料や住民税の負担が大きくなり、さらには会社側に副業が知られやすくなるリスクもあります。
個人事業のままかマイクロ法人化するかの判断基準
副業としての所得が増えれば増えるほど、マイクロ法人化による節税メリットが高まる可能性があります。ただし、法人化することにより決算書の作成や税務申告、社会保険への加入義務なども発生します。こうしたコストや手間を上回るだけの節税効果・信用度向上が見込めるかを検討したうえで、法人化のタイミングを決めることが重要です。
マイクロ法人は「収入の規模が大きくなってきた」「信用度を高めたい」「長期的に事業を拡大したい」といったニーズがある方にとって、有力な選択肢となります。一方で、法人化にはコストや煩雑な手続きが伴うため、事業の将来像や収入規模を総合的に見極めて決断することが不可欠です。
設立・運営費用の目安
会社を設立する際には、定款の作成や認証、法人登記に関わる費用がかかります。株式会社と合同会社では、初期費用の負担が異なりますので、それぞれの大まかな金額を把握しておくとよいでしょう。
初期費用(定款認証・登録免許税など)
株式会社・合同会社それぞれの大まかな金額
- 株式会社の場合
- 登録免許税:資本金の0.7%(ただし最低15万円)
- 定款認証費用:5万円(公証役場での認証手数料)
- 印紙税:4万円(紙の定款を利用する場合)
- 合計の目安:約20万円前後(資本金や認証方法によって変動)
- 合同会社(LLC)の場合
- 登録免許税:資本金の0.7%(ただし最低6万円)
- 定款認証費用:不要(公証役場での認証義務がないため)
- 印紙税:4万円(紙の定款を利用する場合)
- 合計の目安:約10万円前後(資本金や定款の作成方法によって変動)
電子定款を使った場合の費用削減
紙の定款を作成すると印紙税4万円がかかりますが、電子定款を利用すればこの印紙税を不要にできます。電子定款を作成する場合は、電子証明書の取得費用やソフトウェア・サービスの利用料などが必要ですが、結果的に印紙税の4万円がかからなくなるため、設立費用を抑えられるケースが多いです。
ただし、電子定款に対応している公証役場や必要書類、電子署名の取得方法など、事前準備が複雑になることもあるため、専門家に相談するか、電子定款の作成サポートを行うサービスを活用するのも一案です。
維持費(法人住民税均等割・会計ソフト・税理士顧問など)
会社を設立した後は、事業規模や利益の大小にかかわらず、一定の維持費がかかります。特に、法人住民税の均等割や、経理・会計関連の費用については、毎年かかるコストとして認識しておく必要があります。
毎年のコストを把握しておく
- 法人住民税均等割:会社が赤字であっても、一定額が課税されます。東京23区の場合、資本金1,000万円以下の法人であれば年間7万円程度が目安です。
- 法人税・消費税・事業税:事業の利益や売上に応じて納税が発生します。新設法人の場合は、設立後2期間は消費税の免税事業者となるケースが多いですが、資本金の額や他要件によって異なるため、事前に確認が必要です。
- 会計ソフトやクラウドサービスの利用料:月額数千円~1万円程度のソフトが多いですが、機能やサポート体制に応じて費用は変動します。
規模に応じた経理・税理士費用
- 税理士顧問料:会社の規模や依頼内容によって異なりますが、月々1万円~5万円程度が目安です。決算申告や年末調整などをまとめて依頼する場合は、別途費用がかかることもあります。
- 自社での経理体制:社員や経理担当者を雇用する場合は、人件費が新たに発生します。人材を育成するための研修や情報収集も必要になります。
- クラウド会計ソフトの活用:領収書のデータ取り込みやレポート作成の自動化によって負担が軽減されるため、税理士や経理担当者の工数削減につながることがあります。
銀行口座開設にかかる手間
会社設立後は、事業用の銀行口座を開設することが一般的です。個人口座とは違い、法人口座開設では審査が厳しめに行われる場合があるため、必要書類や手続き方法について事前に確認しておきましょう。
法人口座は個人口座より審査が厳しい場合がある
法人は個人に比べて資金の流れが複雑になりやすく、取引先や顧客とのやり取りも多岐にわたります。そのため、銀行側としては「事業を適切に運営しているか」「会社としての信頼性があるか」といった点を慎重に審査します。特に、設立直後の会社では事業実態を証明するための書類が少ないこともあり、審査に時間がかかる、または口座開設を断られるケースも考えられます。
開設時の必要書類と注意点
- 必要書類の例
- 登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- 代表者の実印・印鑑証明書(会社代表印とは別に必要な場合もあり)
- 会社の定款、事業計画書や会社案内(事業内容を明確に示す資料)
- 代表者の身分証明書(運転免許証・マイナンバーカードなど)
- 注意点
- 事業内容を説明できる書類を十分に用意し、銀行担当者からの問い合わせに誠実に対応する。
- 開設時期については余裕を持って計画し、銀行側の審査に時間がかかる可能性を見込む。
- ネット銀行の場合は、実店舗型の銀行に比べ審査基準が異なるケースもあり、必要書類が増えることやビデオ面談などを求められる場合もある。
会社の設立時には、初期費用だけでなく日々・毎年の維持費、金融機関との取引のしやすさなどを総合的に検討する必要があります。最適な経営環境を整えるために、事前に情報収集を行い、必要に応じて専門家へ相談することでスムーズな会社運営を実現することができるでしょう。
マイクロ法人の事業内容例
マイクロ法人は、代表者1名や数名といった最小限の体制で運営されるため、低コストかつ柔軟に事業を行えるのが特徴です。
以下では、マイクロ法人として想定される代表的な事業内容と、それぞれのメリット・注意点について解説します。
アフィリエイト・コンテンツビジネス
アフィリエイトやブログ運営、YouTubeなどのコンテンツビジネスは、個人事業主として取り組むケースが多く見られます。しかし、一定の収益が安定してきたり、今後の拡大を見据えたりする場合は、法人化を検討する価値があります。
税制上のメリット
個人の所得が高くなると所得税や住民税が累進課税で高額になる可能性があります。一方、法人化すれば法人税のフラットな税率が適用され、適切な節税対策を取りやすくなります。経費の範囲も広がるので、機材購入や外注費などを法人経費として計上でき、実質的なコスト削減につながります。
社会的信用度の向上
アフィリエイトやYouTubeなどのコンテンツビジネスは、依然として「副業」や「ネットビジネス」という印象を持たれやすい面があります。法人化すれば、取引先や広告主からの信頼度が高まり、より大きな広告案件や共同プロジェクトに参加しやすくなります。クレジットカードやローンなど金融関連でも、法人としての実績を評価されるケースが増えます。
不動産投資・不動産管理
マイクロ法人で不動産を所有・管理するケースも増えています。とくに、個人で複数の物件を所有する場合、法人を活用することで節税メリットや相続対策を期待できる場合があります。
メリット
節税効果
個人での不動産所得が大きくなると、高額な所得税や住民税が課せられますが、法人を活用すれば一定の法人税率が適用されるため、税負担が軽減する可能性があります。
相続対策
不動産を個人名義で持っていると相続税評価額が大きくなりがちですが、法人名義の場合、相続対象は株式となり、株式評価の仕組みによって相続税負担を抑えられる場合があります。
信用力向上
法人として管理を行うことで、物件オーナーや金融機関への信用度が高まり、追加融資が受けやすいケースもあります。
デメリット
設立コスト・維持コスト
法人設立には登録免許税や印鑑証明などの初期費用、さらに毎年の決算申告や税理士費用などもかかります。
赤字でも法人住民税が発生
事業が赤字であっても、均等割として法人住民税が一定額発生するため、小規模で利益が小さい場合には負担が大きくなる可能性があります。
資金繰りや融資のハードル
個人名義で組んでいたローンを法人名義に変更する場合、改めて審査が必要となったり、個人保証が求められたりすることがあります。
せどり(転売)・物販ビジネス
インターネット上のマーケットプレイスやフリマアプリを活用して、商品を仕入れて転売する「せどり」や、独自ブランドの商品を販売する物販ビジネスも、マイクロ法人として展開する事例が増えています。少人数で始めやすく、在庫や仕入れをうまくコントロールすれば安定収益が期待できます。
在庫管理の明確化
法人として在庫を所有・管理する場合、個人と法人の資産をしっかり分ける必要があります。仕入れや在庫の管理は、法人名義の口座やクレジットカードを使用し、会計帳簿を適切につけることが大切です。
また、棚卸資産としての在庫評価や処分方法など、決算期には正確な在庫金額を算出しなければなりません。システムや表計算ツールを活用して、リアルタイムで在庫管理ができるように整備することをおすすめします。
キャッシュフローの確保
物販ビジネスでは、商品の仕入れと売上のタイミングがずれることが多いため、キャッシュフローが逼迫しやすいです。特に法人化すると経費や税金などの支払いが追加発生する可能性があるため、資金繰りを綿密に計画する必要があります。融資やファクタリングなどの資金調達手段を検討する場合も、法人であれば取引条件が有利になる場合があります。
コンサルティング・フリーランス業
経営コンサルタントやデザイナー、エンジニア、ライターなど、個人事業としてフリーランスで活動している方が法人化するケースも増えています。自身のスキルを武器にクライアントと直接契約を結びやすい業態です。
法人名義での契約
個人事業主よりも「法人」として契約を交わしたい企業は少なくありません。大企業や官公庁案件は特に、法人としての取引を望む傾向があります。法人化することで参加できる案件が増え、事業の拡大チャンスが広がります。
業務委託契約・顧問契約の単価アップ
コンサルティングやフリーランス業では、同じ業務内容でも「個人」か「法人」かで単価が変わることがあります。法人としての信頼度や専門性をアピールすることで、より高い報酬設定が可能になります。また、責任範囲が明確になることで、長期的な顧問契約などの安定した収入源を得やすくなります。
配送業・軽貨物など
個人事業で軽貨物ドライバーや配送業を行う方も多くいますが、安定した売上が見込める場合には、マイクロ法人化を検討するのも一つの手段です。運送業許可等の要件は厳しい部分がありますが、小規模からでも始められる点が魅力です。
車両・燃料費・保険料の経費計上
個人事業として軽貨物や配送業を行う場合、車両や燃料費の一部を経費として認められますが、法人化することでより明確に経費計上できます。車両リースや保険の契約も法人名義にまとめやすくなり、交渉時の信用力アップが期待できます。
社会保険加入・保険料負担の最適化
法人化すると、代表者自身も健康保険や厚生年金に加入することが一般的です。個人事業主の国民健康保険や国民年金よりも負担が増える場合はありますが、将来的な年金受給額や医療保険制度の充実など、長期的なメリットも考慮する必要があります。また、法人にすることで役員報酬をコントロールしながら社会保険料を最適化することも可能です。
マイクロ法人設立で後悔しないためのポイント
マイクロ法人は、個人事業主とは税金や社会保険の扱いが変わるため、設立前によく理解しておかないと、思わぬコストやトラブルに発展する可能性があります。以下では、マイクロ法人設立で後悔しないために押さえておきたいポイントを詳しく解説します。
本業とは別事業を選ぶ重要性
マイクロ法人を設立する際、すでに個人として行っている事業をそのまま法人化するのか、新たに別の事業を始めるのかを考える必要があります。
勤務先の副業規定の確認
副業禁止規定がある会社に勤めている場合でも、すべての副業が完全に禁止されるわけではないケースがあります。
たとえば、「報酬のある活動全般がNG」「役員登記のある法人の設立がNG」など、具体的に規定されている場合もあります。マイクロ法人の設立を検討する際は、まず勤務先の就業規則や副業規定を入念にチェックし、許される範囲を明確にしておきましょう。違反してしまうと、懲戒処分や退職勧奨につながるリスクがあるため要注意です。
社会保険の扱いへの誤解
マイクロ法人を設立すると、代表取締役となる自分自身や、役員・従業員の社会保険加入が必要になるケースが多いです。
特に「法人設立後も個人事業と同じ感覚で国民健康保険のままでいい」と誤解してしまうと、後で国民年金や国民健康保険の脱退手続きを取る必要が生じたり、未加入期間に対する保険料の支払いが発生したりする場合があります。また、勤務先で社会保険に加入している状況でも、役員として保険料が二重に発生しないかなど、複雑な取り扱いになることがあるため、事前に社会保険労務士や税理士に確認しておくことが大切です。
売上規模や税負担の試算を徹底
マイクロ法人のメリットとしてよく知られているのが、節税効果です。個人事業主の場合、所得が増えると税率も上昇していくため、大きな利益が出るほど納税額が大きくなります。一方、法人の場合は所得税率の仕組みが異なり、法人住民税や法人税など、さまざまな税額シミュレーションが必要になります。設立前に自分の事業規模や将来の売上予測を踏まえ、税負担を試算しておくことは、後悔しないための重要なポイントです。
法人化するとどのぐらい得?どのぐらいコスト?
法人化によるメリットとしては、所得税率の軽減や経費として計上できる範囲が広がるといったものが挙げられます。
ただし、法人を維持するためには法人住民税(最低でも約7万円〜)、決算申告費用、税理士報酬など、定期的にかかるコストがあることも事前に把握しておきましょう。
また、役員報酬として給与を取るか、配当として利益を分配するかなど、最適なスキームの検討も重要です。役員報酬は損金として扱われ、法人所得を圧縮できるというメリットはあるものの、報酬額によっては個人の所得税率に影響を与えます。これらのシミュレーションを行わずにとりあえず法人化してしまうと、予想より税負担が増えてしまう可能性もあるため、慎重に判断しましょう。
ケースによっては個人事業主のままの方が有利なことも
売上規模が小さかったり、経費になりやすい項目が少ない事業形態の場合、個人事業主として活動し続けた方が税金面で優位に立てることもあります。
青色申告特別控除や扶養控除など、個人事業主として受けられる控除は魅力的です。また、社会保険面でも個人事業主として国民年金・国民健康保険のままの方が保険料を抑えやすいケースもあります。結局はシミュレーション次第なので、法人化に踏み切る前に、確実に数字を試算することをおすすめします。
専門家(税理士・司法書士など)の活用
法律や税金に関する知識は専門的であるため、自分だけで進めようとすると不備が出たり、過剰・過少に税金を支払ってしまったりするリスクがあります。そこで、専門家を上手に活用することで、時間とコストを節約するとともに、正確な手続きを実現できます。
設立代行サービスを使うメリット
司法書士や行政書士が提供している「法人設立代行サービス」を利用すると、定款作成や登記手続きなどをスムーズに進められます。
定款には会社の目的や組織形態、役員構成、株式の取扱いなど、多数の項目を正確に記載しなければなりませんが、専門家であれば誤りや不備を防いでくれます。書類不備による再提出や収入印紙の無駄などを避けられるため、結果的にコストや手間を抑えられるでしょう。
節税ノウハウや助成金の情報
税理士や社会保険労務士など、分野ごとに専門家を活用することで、多様な節税ノウハウや助成金の情報を得られることがあります。
特に助成金は申請期限や条件が複雑なケースが多いため、個人で調べても見落としてしまいがちです。専門家は各種最新情報を把握しているので、うまく活用すれば、法人として大きなメリットを得られる可能性があります。
マイクロ法人の税理士についてはこちらの記事でくわしく解説しています。
マイクロ法人に税理士は必要?費用相場やメリット・デメリットを徹底解説
ペーパーカンパニーと思われないよう実態ある活動を
マイクロ法人は、実態のないペーパーカンパニーであると疑われるリスクが高い側面があります。社会的信用を得るには、「きちんとしたオフィスがあるのか」「経理処理が正しく行われているのか」「実際に売上はあるのか」など、実態を示すことが大切です。
事務所の実在性・帳簿の正確さ・売上の確保
マイクロ法人であっても、専用の住所や電話番号を用意し、オフィスとしての機能を整えておくと信用度が上がります。
帳簿の記帳も、日々の取引内容を正しく記録し、決算時にミスのない状態にしておくことが基本です。また、売上を確保し、事業として成り立っている実績を示すことがペーパーカンパニーとみなされないための最大のポイントとなります。必要があれば契約書や見積書、請求書の管理も徹底し、公的に証拠を残せる状態を作りましょう。
バーチャルオフィス利用の注意点とメリット
マイクロ法人の設立・運営コストを抑えるために、バーチャルオフィスを活用する方法も一般的です。
住所を借りるだけでなく、電話応対や郵便物転送サービスなどを利用できるプランもあります。ただし、バーチャルオフィスの住所しかないと「実態のない会社」と疑われるケースもあるため、信頼度の高いサービスを選ぶことが重要です。加えて、必要に応じて貸し会議室などを用意したり、取引先への説明資料を充実させたりして、実際の業務が行われていることを示せる工夫が必要となります。
マイクロ法人を設立するメリットは多い一方で、設立や維持には独自のリスクと手間が伴います。特に、所得税や法人税、社会保険などの税務・労務分野、勤務先の副業規定との兼ね合いを十分に把握していないと、知らないうちにコストがかさんだり、会社規定に違反してしまったりする可能性があるでしょう。事前にしっかりと情報収集や専門家への相談を行い、後悔のないマイクロ法人設立・運営を目指しましょう。