「資金繰りが苦しい…。なんとか運転資金を確保したい。でも、業績も良くないし追加融資は無理かもしれない…」
そんな状況で、とりあえずダメもとで取引のある銀行に申し込んでみようと考えていませんか?
業績が悪いときに焦って既存の銀行へ追加融資を申し込むのは、とても危険です。
なぜなら、融資審査に通らないだけでなく、最新の決算書を提出することで信用情報にマイナスの影響を与えてしまう可能性があるからです。最悪の場合、既存融資の条件変更を求められることもあります。
では、どうすればよいのでしょうか。
ポイント
おすすめは、日本政策金融公庫が用意している「資金繰りが苦しい会社向けの公的融資」の活用です。専門家のサポートを受けながら、この制度を利用して資金繰りを立て直すのが最も安全で効果的といえます。
この記事では、日本政策金融公庫の制度融資のひとつ「事業再生・企業再建支援資金」について、申請方法や具体的な融資の流れをわかりやすく解説しています。
なお、公庫の制度融資は中小企業支援を目的としており、社会状況に応じて新設・終了されることがあります。利用を検討する際は、最新情報を確認して早めに行動することが大切です。
業績不振時の融資申込で受ける5つの不利益
銀行に融資を申し込むと、必ず決算書などの資料を提出しなければなりません。
その時点で業績が悪ければ、銀行は経営悪化を深刻に受け止めます。
既存融資の条件が厳しくなる
銀行は経営の悪化を知ると、リスクを回避しようと既存融資の条件を見直すことがあります。
具体的には以下のような不利益を受ける可能性があります。
- 金利を年1.5%から3%へ引き上げられる
- 追加の担保を要求される
- 保証人を増やすよう求められる
- 返済期間を短縮される
融資枠が減らされる・止まる
「これ以上貸すのはリスクが高い」と判断されると、融資枠そのものが減らされることがあります。
例えば、運転資金として5,000万円の枠があっても、業績悪化を理由に2,000万円まで減額されるといったケースです。最悪の場合、追加融資がまったく受けられないこともあります。
既存融資の回収を迫られる
追加融資を申し込んだことで、かえって既存融資の返済を急がされる場合があります。
- 期限の利益喪失条項が適用される
- 一括返済を要求される
- 債権回収部門へ案件が移される
このような動きは資金繰りを一気に悪化させ、経営を圧迫しかねません。
取引全体に影響が広がる
融資だけでなく、銀行との取引関係全般に影響が出る点も見逃せません。
- 当座貸越枠の削減
- 手形割引の停止
- 預金口座の監視強化
日常的な資金の出し入れや決済にも制約がかかり、経営の自由度が下がってしまいます。
信用情報にも悪影響が及ぶ
さらに深刻なのは、これらの動きが信用情報に反映されることです。
銀行がその企業の信用格付けを下げると、その情報は信用保証協会や他の金融機関にも共有される可能性があります。これにより、今後の資金調達全般が難しくなるリスクがあります。
資金繰りが苦しいときにやるべき4つの改善策
資金繰りに困ったときは新たな融資を考えがちですが、その前に改善策を知ることが重要です。理解せずに資金調達しても再び行き詰まる恐れがあるからです。
ここでは資金不足解消と財務健全化に役立つ即効性のある4つの方法を紹介します。
流動・固定負債の組換え
ポイント
短期借入金を長期借入金へ借り換え
資金繰り改善には、短期的な支払い義務を長期返済に切り替えることが効果的です。短期借入金や買掛金を長期借入金へ借り換えることで、月々の返済負担を大幅に軽減できます。
例えば300万円の短期借入金を3年返済に組み替えると、月100万円から約8.3万円に抑えられます。特に設備投資資金や運転資金は長期借入金への変更がしやすいのが特徴です。
未回収債権の確認
ポイント
請求漏れ・入金漏れのチェック
資金繰り改善では、請求漏れや入金漏れによる未回収債権の確認が重要です。
売掛金台帳と入金状況を照合し、過去3か月分を点検して請求漏れを防ぎます。未入金があれば取引先に督促し、支払い予定日や計画を確認します。さらに、売上発生時に即時請求できる仕組みやクラウド型請求システムを導入することで、効率化と漏れ防止が可能です。
棚卸資産の整理
ポイント
滞留在庫の解消・現金化
滞留在庫は資産でありながら現金化できていない「死に金」です。回転率を分析して3か月以上動かない在庫を特定し、割引販売やアウトレット・オンライン販売で処分します。業者への一括売却や仕入先への返品交渉も有効で、短期的な現金化と保管費用削減につながります。
経費の支払いサイクルの変更
ポイント
クレジットカードにするだけで最長60日
支払いを現金や振込からクレジットカードに変更すると、利用日から支払い日まで30~60日程度の無利息猶予を得られ、即効性のある資金繰り改善が可能です。
月50万円の経費をカード払いにすれば、約100万円分の運転資金効果が得られます。固定費や仕入れ費、広告費など定期的な支出に特に有効で、複数カードの締め日を分散させるとさらに柔軟な資金管理が可能です。
これらの改善策を組み合わせることで、短期的な資金不足を解消し、安定した事業運営の基盤を構築することができます。
特に流動・固定負債の組換えは最も効果が大きいため、優先的に取り組むことをお勧めします。
資金繰り改善には公的融資がおすすめ
資金繰り改善の4つの対策のうち、最も効果があり即効性があるのが流動・固定負債の組換えです。
具体的には、短期返済の借入金を長期返済に組み替えることで、毎月の支払いを減額させます。
その際に利用したいのが公的融資である「日本政策金融公庫の事業再生・企業再建支援資金」です。
日本政策金融公庫の事業再生・企業再建支援資金とは
日本政策金融公庫が行う事業再生・企業再建支援資金とは、「経営改善や再建が必要だが、しっかりとした計画と金融機関の協力体制がある中小企業」を対象に、公庫が長期・低利の資金と経営指導でサポートする制度です。
対象となる方
以下の①~③のいずれかの条件を満たす中小企業が利用できます。
①再建が急務な状況にあること (次のいずれかに該当) | ② 自助努力と支援体制が整っていること | ③ 公庫による継続的な経営指導で再建可能と認められること (次のいずれにも該当) |
入債務が整理回収機構に譲渡された企業と深い取引関係がある | 債務返済能力がある | 認定支援機関の支援を受けて経営改善計画に取り組んでいる |
取引先の業況悪化の影響を受けている | 再建計画が適切に策定されている | 過剰債務企業で、認定支援機関の指導を受けつつ関係金融機関の合意が得られた経営改善計画を策定している |
過剰債務の状況にある | 金融機関など関係者の協力が得られている | |
中小企業活性化協議会などの支援を受けて再生に取り組む | ||
借入条件を変更して返済負担を軽減している | ||
第二会社方式による再生を行う | ||
延滞により債権がサービサーへ譲渡されたが、再生を目指している |
融資の使いみち
- 企業再建計画や経営改善計画に基づく資金
- 設備資金
- 長期運転資金(施設更新のための一時的賃借料も含む)
融資条件
融資限度額 | 最大20億円(条件によっては2億7千万円まで特別利率が適用) |
利率(年) | 基準利率(上限2.5%) 条件により「特別利率②・③」が適用される場合あり、担保なしの場合に利率引下げ措置あり |
返済期間 | 最長20年(据置2年以内) |
担保・保証人 | 個別に相談 場合によっては経営責任者の個人保証が必要 |
申込方法
日本政策金融公庫の 中小企業事業の窓口 に直接申込み
緊急融資の場合の経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)
日本政策金融公庫の「事業再生・企業再建支援資金」は資金繰り改善におすすめですが、認定支援機関のサポートを受けて取り組む必要があるため、やや時間を有します。そこで、
一時的な悪化で緊急融資が必要な場合は、日本政策金融公庫の経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)」という制度があります。
利用できる方
次のような「一時的に悪化しているが、中長期的には回復が見込まれる企業」が対象です。
- 売上高が前期または前々期比で5%以上減少
- 直近3か月の売上が前年または前々年同期比で5%以上減少し、今後も減少見込み
- 純利益や経常利益率が悪化している
- 回収条件や支払条件が悪化(0.1か月以上)
- 社会的要因により資金繰りが著しく悪化している、または悪化する恐れがある
- 赤字幅は縮小したが損失計上が続いている
- 繰越欠損金が多い、または債務償還年数が15年以上
資金の使いみち
- 緊急に必要な 設備資金
- 経営基盤の強化に必要な 運転資金
融資条件
融資限度額 | 4,800万円 |
金利 | 基準利率 特別利率Qが適用される場合あり |
返済期間 | 設備資金:最長15年(据置3年以内) 運転資金:最長8年(据置3年以内) |
担保・保証人 | 希望を伺いながら相談可能 |
なぜ公的融資は銀行の融資と違って通りやすいのか?
日本政策金融公庫の公的融資が民間銀行よりも通りやすいとされるのは、両者の「設立目的」と「役割」の違いに理由があります。
まず、日本政策金融公庫の特徴としては次の点が挙げられます。
日本政策金融公庫の特長
- 政策目的:中小企業の支援や地域経済の活性化を主目的としており、利益追求が第一ではありません。
- 補完的役割:民間金融機関では対応が難しい分野をカバーする使命を持っています。
- リスク許容度:政府系機関として、民間銀行が敬遠しがちなリスクも一定程度は受け入れる姿勢があります。
- 長期的視点:短期的な収益性よりも、経済全体の持続的な発展を重視しています。
一方で、民間銀行は性質が異なります。
民間金融機関の特長
- 審査基準:株主への利益還元を求められるため、より厳格に収益性や安全性を重視します。
- 担保・保証:公庫には無担保・無保証人で利用できる制度が充実していますが、民間では担保や保証が求められるケースが多くあります。
- 対象者:公庫は創業間もない企業や小規模事業者への融資に積極的ですが、民間は実績のある企業を優先しがちです。
- 金利設定:公庫は政策金利として低金利での貸付が可能ですが、民間は市場金利に基づいた水準になります。
さらに、具体的な審査の観点でも違いがあります。
具体的な審査の観点
- 公庫は「事業の将来性」や「社会的意義」を重視する傾向があります。
- 民間銀行は「過去の実績」や「現在の財務状況」をより厳格に評価します。
- 公庫は創業資金や事業承継など、政策的に支援すべき分野に特化しているのが特徴です。
ただし、誤解してはいけないのは、公庫の融資も決して「無審査」ではないという点です。事業計画の妥当性や返済能力は当然チェックされます。
公的融資でも審査に通らない場合
日本政策金融公庫などの公的融資は民間銀行より審査が通りやすいとされていますが、以下の場合は審査に通らない可能性があります。
消費者金融からの借入が多い | 消費者金融からの借入は資金繰りの悪化を示すシグナルとして捉えられます。 返済能力への懸念が生じ、新たな融資の審査に悪影響を与えます。 |
債務超過や恒常的な赤字状態 | 会社の財務状況が悪化している状態では、返済能力に疑問が持たれます。 特に継続的な赤字は事業の持続可能性に問題があると判断されます。 |
融資限度枠に達している | 既に借入額が限度に達している場合、新規融資は困難になります。 返済負担が過大になるリスクがあるためです。 |
金融事故歴 | 代表者の信用情報に問題がある場合や、法人の返済猶予歴がある場合は、 信用力が低いと判断され審査に不利になります。 |
返済原資が捻出できない | 事業計画や収支予測において、 融資の返済に必要な資金を継続的に確保できる見通しが立たない場合、 審査通過は困難になります。 |
公的融資の申請から資金繰り改善までの3ステップ
資金繰りに強い税理士を探す
事業再生や企業再建では資金繰り改善が最重要であり、資金繰りに強い税理士は財務分析から改善策の提案まで総合的に支援してくれる重要なパートナーです。
公庫の経営改善資金融資の場合、認定支援機関が条件
日本政策金融公庫の企業再建資金や事業再構築補助金の申請では、認定経営革新等支援機関からの事業計画書の確認が必須要件となっています。
認定資格を持ち資金繰りや公庫融資に強い税理士を選ぶことが事業再生成功の近道です。
認定支援機関とは
認定経営革新等支援機関(通称:認定支援機関)は、中小企業・小規模事業者が安心して経営相談等を受けられるように、専門知識や実務経験が一定レベル以上の者に対して国が認定する公的な制度です。主に以下のような役割があります。
- 中小企業の経営改善や資金調達支援
- 事業計画作成支援
資金繰りに強い税理士を見分ける4つのポイント
資金繰りに強い税理士は、帳簿や申告だけでなく、会社のお金の流れを先読みして具体的な対策を提案してくれます。見分けるポイントは主に4つです。
- 毎月の資金繰り表を確認して打ち合わせしてくれるか
将来の入出金やキャッシュ残高を予測し、資金ショートを防げるか。
- 金融機関との関係構築に積極的か
融資用資料の作成や面談への同席など、銀行対応を支援できるか。
- キャッシュフローを意識したアドバイスがあるか
利益だけでなく、運転資金の不足に対応した助言ができるか。
- 経営改善や資金調達の具体策を提案できるか
経費削減だけでなく、売上改善や補助金活用などトータルでサポートできるか。
これらのポイントを押さえることで、資金繰りの不安を未然に防げる税理士を選ぶことができます。
資金繰りに強い税理士の選び方についてはこちらの記事でくわしく解説しています。
資金繰りに強い税理士を見分ける4つのポイントと失敗しない探し方
公庫の経営改善資金融資を申し込む
制度を利用する際の基本的な流れは、以下のとおりです。
❶申込方法の選択
まず、申込方法を選択します。大きく分けて2つの方法があります。
- 直接貸付
最寄りの日本政策金融公庫(日本公庫)の各支店にある「中小企業事業」の窓口で申し込みます。担当者と直接やり取りできるため、制度の内容や必要書類についてその場で確認できます。
- インターネット申込
日本公庫の公式ホームページから24時間いつでも申請可能です。来店が難しい場合や、急ぎの申し込みをしたい場合に便利です。
❷必要書類の準備
申し込みの際には、事業の状況に応じて以下の書類を用意します。
法人の場合 | 個人事業主の場合 |
過去の決算書一式(貸借対照表、損益計算書など)が必要です。 | 最新の確定申告書を提出します。 |
創業計画書を提出しない場合:企業の基本情報や事業内容をまとめた「企業概要書」が必要になります。
❸申込手続き
申請フォームでは、以下の情報を入力します。
- 申請者の氏名や住所
- 希望する申込金額
- 既存の取引がある場合は「支払額明細書」を確認し、取引番号と支店名を入力
入力内容に不備があると審査が遅れる可能性があるため、正確に記載することが大切です。
❹個人保証について
直接貸付の場合、一定の条件に該当する場合には、経営責任者(代表者)による個人保証が必要となる場合があります。これは事業再生支援の融資でも、経営者が一定の責任を負う形を求められるケースがあるためです。ただし、要件を満たすことで個人保証が不要になる場合もありますので、申込時に確認が必要です。
税理士のサポートのもと資金繰り改善に取り組む
資金繰り改善が得意な税理士は、単なる記帳や申告業務にとどまらず、毎月の継続的なサポートを通じて経営者の資金繰りを支援してくれます。具体的には、次のような取り組みが挙げられます。
資金繰り表の作成・更新 | 今後3~6ヶ月の入金・支出予定を詳細に記載した資金繰り表を作成します。 さらに、実績と予定を比較し、ズレがあれば原因を分析して次月以降の予測精度を高めます。 |
キャッシュフロー分析 | 営業・投資・財務の3つのキャッシュフローに分けて現金の動きを確認し、 どの部分で資金が不足しているのかを明確にします。 |
入金サイクルの短縮化 | 売掛金の回収期間を短縮するための提案 (例:月末締め翌月末払いを翌月20日払いへ変更)や、 前受金制度の導入、早期入金割引制度の設計などを行います。 |
支払いタイミングの最適化 | 買掛金の支払いサイトを延長するための交渉アドバイス、 月末に集中しがちな支払いの分散化、 さらには資金に余裕がある時期の前払いの検討といった提案をしてくれます。 |
日繰り管理の徹底 | 毎日の現金残高確認の仕組みづくりや、 週次での資金繰り状況報告システムの構築をサポートします。 |
経費削減の具体案 | 固定費の見直し、不要な経費の洗い出し、 支払い条件の再検討といった形で、無駄を省くための提案を行います。 |
このように、税理士が継続的に伴走してくれることで、資金ショートを未然に防ぎ、安定した資金循環を維持できる体制が整っていきます。
まとめ
資金繰りが厳しい状況で、焦って既存の銀行に追加融資を申し込むのは非常に危険です。
業績悪化が明らかになり、金利引き上げや返済条件の厳格化、融資枠の減少、既存融資の一括返済要求など、経営に大きな負担を与えるリスクがあります。
また、信用情報にも悪影響が及び、今後の資金調達が難しくなる可能性もあります。
そこでおすすめなのが、日本政策金融公庫の「事業再生・企業再建支援資金」や「経営環境変化対応資金」といった公的融資制度です。
これらは中小企業支援を目的としており、低金利・長期返済が可能で、民間銀行より融資審査が通りやすいのが特徴です。
さらに、資金繰りに強い税理士のサポートを受けることで、資金繰り表の作成、入出金予測、未回収債権の回収、支払いサイトの調整、在庫現金化など具体的な改善策を実施できます。
これにより、資金不足を解消しつつ、安定した事業運営の基盤を築くことが可能です。